置き去り 1


「しかし、弱ったな」

プトレマイオスの格納庫。

シミュレーションを終え、四人のガンダムマイスターが顔を揃えていた。問題となったのは、刹那の搭乗するダブルオーガンダム。

ダブルオーを見上げていたティエリアが悔しそうにm唇を噛む。

並んだ刹那が、ティエリアの代わりに言葉を紡いだ。

「ダブルオーガンダムの、ツインドライブシステム……」

四人が四人とも、ダブルオーガンダムを見上げる。

「さっきトロかったのはそれが原因か?」

ロックオンの問いかけにアレルヤが頷く。

「起動後、完全な同調までにさらに時間がかかる。そもそもツインドライブシステムは、長時間のトランザムにも耐える為の機能だ。

トランザムで太陽炉の回転を爆発的に上げ、完全に起動する。なのに、今は太陽炉の不安定さにおいて、トランザムが封じられている。

その条件をクリアさえしてしまえばダブルオーは僕らにとって最大の戦力だ」

ティエリアが付け加える。

「パイロットの負荷」

「そう、それもある。Gもかかるし、機体がとにかく乱暴だ」

「駄目駄目ってことだな」

 お手上げ。アレルヤが両手を挙げる。ティエリアが睨む。

「何とかする」

 刹那がダブルオーを見上げ、言った。

「おいおい……無理だろ?」

ロックオンの言い分は正しかった。

刹那が言う。

「それでもだ」

それを最後に、三人を置いて刹那は己の乗るガンダムの方へと歩み出す。整備か、あるいは、問題を打開する為に。

「刹那、トランザムは使うな」

 何か思い当たったようにティエリアが声をかける。

 振り返った刹那がティエリアを直視する。まっすぐな目で。

やがて頷いた。










 海上でのアロウズとの戦い。

 ケルディムと同時発進した筈のダブルオーが、やはり隊列から遅れる。

《やはり初動が……》

苦々しげな刹那の呟きをセラヴィーが拾う。

《問題ない。前衛はこちらで蹴散らす》

一呼吸置いた返答。

《了解》

 セラヴィーからの安堵の息をダブルオーは拾わなかった。

 やがて。

アヘッドに対して、最新鋭の機体に乗っていながらもマイスター達は苦戦を強いられた。

 互いに、互いの援護までは難しいと感じる。最初に組んでいたフォーメーションも散らされ、各個激戦状態へ。

 歯を喰いしばり戦う。

 何処にも逃げられない状況。

 そこで生きると決めた。

 急速接近してきた相手があのユニオンの軍人であることは直感で理解した。対するうちに、着実に追い詰められていく。

(使うしかない)

 迷うまでも無い。

 機体の死と己の死を同調してはならない。

 敵の剣が迫った。

 トランザムを実行した。







 セラヴィーのモニター。視界の端には常にダブルオーガンダムの姿が入っていた。

そのダブルオーが戦っている相手。あの執拗なまでの攻撃は群を抜いての使い手の証明だった。

(何とかサポートをっ)

 セラヴィーの大出力の一撃。それは当てなくて良い一撃だ。その隙をついて刹那があとは勝手になんとかする。

そのチャンスさえ作れれば刹那は圧倒的に有利になる……筈だ。

 唇を噛む。

 それどころではない。今は、目の前の敵に集中しなくては。超重量級のセラヴィーにとって、今、ありとあらゆる余裕が無い。

 視界の端に。ダブルオーガンダム。

そのダブルオーに、敵の剣が迫っていた。

(たすけたい)

心の底から思う。

せっかく彼は戻ってきてくれたのだ。

この先の、あらゆる彼の人生をかなぐり捨てて。

再び、一緒に戦おうと言ってくれたのだ。

おかげで、また、昔のように戻って。

戻って。

泣き出したくなる。

戻ったものを、再び壊されたくない。

仲間を。

マイスターを。

刹那を。

意を決する。

セラヴィーの破損と引換えにしてでもダブルオーの援護に回ろうとした。

その時。

刹那のガンダムが圧倒的なまでの粒子量を放出した。それが示すもの。かつて宙で同じ現象を見た。

視認と同時に喉が裂けんばかりに叫ぶ。

「馬鹿な!トランザムは!!」

叫びは拾われない。間に合わない。

舞い上がるダブルオー。

圧倒的な出力で。

声もなく飛翔を止めてくれるよう懇願する。

想いは届かない。









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