アルヴィス内を歩き回るようになってから結構な時を過ごしたけれど、それでも立ち入ったことの無い場所の方が多いわけで。

・・・多分、今いる場所は知らない場所であると思う。

(・・・戻ろう)

 がっくり両肩を落として体の向きを変える。

まっすぐ歩いてきただけなのだから、しばらく歩けば総士お別れたエレベーターの位置まで戻れる。

戻って、甲洋の治療室まで戻れば、あとはかって知ったる道だ。・・・と思った。

けれど思い返せば迷っていないと確信している間は何回も曲がったし、エスカレーターにも乗った覚えがある。

そういえば、前に剣司達が言っていた。

“迷路で迷子になったら片方の壁に手をついて歩くんだ。そしたら時間がかかっても必ずゴールに着く”

隣にいた衛も確か大きく頷いていた。

“ほんとか?総士?”

数列離れた最前列の席に腰掛ける総士にも確認を取った。

“・・・あくまでスタート直後から壁に付いていたらの話だ”

教室を横断する声。

総士の声は特に張り上げられす聞き取りにくかったが、あきれ果てていた。

(迷路か・・・アルヴィスも迷路だよな)

そっと壁に手をついてみる。

自力で脱出したい一心で、どんなにかアホなことをしているのか見えていない。

(よしっっ)

気合いを入れて新しい道へと一歩踏み出した。“スタート直後から”という総士の言葉を綺麗に無視して。

***


 ジークフリードシステム内のモニターに、近づいてくる妹の姿が映る。総士は、溢れるような情報の流れを一度止める。

「乙姫、どうした?」

乙姫はシステム内の総士を意識して、システムを見上げて笑う。

“一騎がね、面白いことしてるよ”

「面白いこと?」

“探せば見つかるよ、総士”

それだけ告げると立ち去っていく。

無視するわけにもいかず、一騎に埋め込まれたチップのコードを探す。

すぐに表示された情報に、いすからずり落ちかけた。

「何を・・・やってるんだ一騎は」



***
 もうかれこれ一時間近く歩いているのではないか、と一騎は呟く気力もなく思う。というより、そこまで歩いて一人も出くわさないとなると、相当まずい場所を歩いているのではないか。まだそう遅い時間では内。そのはずなのに、誰もいない。

節約の為にその辺りの明かりは全て自動灯となっていて、奥は果てしなく暗い。

(ったく、なんだよここっ)

エレベーターすら見あたらない。見えない奥を、にらみつける。

 その時・・・・壁のモニターが突然見知った赤で光った。

・・・他の何よりも身近な、赤。

「総士!」

モニターの赤い光はジークフリードシステムの色そのままで、だからこそ必死に駆け寄った。

駆け寄ればやはりそこには総士の姿があって、助かった・・・と思う反面恥ずかしく、画面を直視できない。

“・・・何をしてるんだ?一騎”

 淡々とした言葉の中に、馬鹿に仕切った音があるような無いような。けれどこんな時の総士は、具体的な神様だ。

恥を掻き捨て叫ぶ。

「迷ったっ!!」

どうだ馬鹿だろう馬鹿ですよ助けてくださいお願いします総士様!



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