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come home
自分なりに理解した。
だから今日まで頑張ってこれたし、これからも、そうしていくつもりだった。生かされたことに感謝をし、
これから生きていくことに覚悟を決め、最後までやり抜くことを誓った。
ただ、約束を守りたいだけだった。
戦い続けることを決めた。戦い続けることはかつての誓いを守り続けることになった。
『彼と、一緒に戦うこと』
戦い続ける限り、その約束は守られた。
『島を、守ること』
そうして自分は、彼の思いを引き継いだ。それが、常に共に在るということに繋がった。
彼の、最後の想いと共にいつまでも在るということで満ち足りた。幸せだった。
「お前は・・・・・・誰だ?」
マークザインの中から問いかける。穏やかだった。予想したよりもずっと、混乱無く動けた。
何度も考え、考え抜いて出した先の答えに従う。
そうして、総士と全く変わらない姿のフェストゥムに向かい、ルガーランスを突きつけた。
疑うことが、自分の役目だった。疑わなければならなかった。それが総士との約束だった。
腰まで海に浸かっているソレは、胸元まで濡れていて、一騎に切っ先を突きつけられた瞬間から一歩も進もうと
しなかった。夜から降り続いた雪が止み、空がシンとした瞬間、雪の合間に現れたソレ。
ただ真っ直ぐ、こちらを見上げてくる。
目があった時。冷たいだろうなと、思った。寒いだろうなと。
十の指輪に通した己の指と、手の甲に視線を移す。
節々が赤く裂けていて、新しいものは血が滲んでいた。
目を背ける。
そんな理由でこの得体の知れないものを島に上げる訳にはいかなかった。答えを待った。
(早く・・・何か言え・・・)
何をもって人は人を信じるか。言葉か、記憶か、表情か。
言葉しかなかった。
ソレが岸に上がる直前の波間から一歩も動こうとしないのをはっきりと見た。それを答えとは
見做さなかった。
(お前が動かないのも、凍えそうだと泣き叫ぶのも、俺にとっては同じだ。全く変わらないことだ。
お前は、今から全力で証明しなくてはならない。本物か、それとも悪戯にその姿を使っただけなのか。)
思わず身震いした。寒さからではなく、恐怖で。
もし敵が、そんな風にして、彼の姿を使って保護を求めに来たのであれば?
そうではなく、単に潜り込む為に
その姿を使っていたら?
これが奴らの攻撃の一手段で無いとは誰も証明出来ない。
ならこれは、攻撃だ。
歯を噛み締める。自分が、一騎が、迷うことだけは絶対に許されない。
《一騎?》
ルガーランスを握りなおした時、頭の内側からの声。
剣司の声。
身震いした。もしかしたらまた、総士の声が聞けるかもしれない。あの受け入れやすい声。剣司ではなく、
もっと、ずっと懐かしい・・・・・・。
自嘲が唇に浮かぶ。
他の考えを吹き飛ばすために大きく息を吸う。
たちまち邪魔された。
《お前の根拠の無い混乱で総士を潰すことだけはやめろ》
ショックのあまり血の気が引いた。
震えが止まらない。
吸った息が詰まる。吠えた。
「根拠が無いっ?」
あの冷たい海から引き上げたいのに、それは攻撃かもしれなかった。
《落ち着けよ一騎。総士は話し下手だった。それはまだ覚えてるだろ?》
人を落ち着けるための誘導的な会話に入ったと直感する。
「剣司、俺は・・・負けたくない。ここまで守ってきたものを、こんなところで失いたくない。
俺たちに掛かってるんだ。全て。俺は総士との約束を守らなきゃならない」
《勝ち負けになったのか?お前の中で》
ルガーランスを総士から大きく反らす。目を瞑り、開けた。声が震えた。
「お前を撃ちたいよ、剣司」
《一騎、敵は今、どこにもいない可能性を・・・》
「そんなのあるもんかっ!このフェストゥムはまだ認められてない!敵かもしれないってことだろうっっ?
何もわからないのにどうして敵じゃないって決められるんだ?どうしてそんな風に決めるんだ?総士はそんな判断しない!
俺は総士と約束したんだ!これが攻撃だったら間に合わなくなる!もう間に合わなくなるのは嫌だ!」
剣司のじっと聞いている気配を無視し、再びランスを振り上げる。
「剣司!」
叫ぶことで撃つぞと、示した。
溜息が聞こえた。
《一騎、マークザインを止める。お前はもう乗せられない》
振り上げた瞬間硬直する。
止める?それはどういうことだ?
現時点での唯一の攻撃手段を放棄するということか?
ここにはまだ、昔の通り総士の好きだったものが沢山、守りたかったものが沢山。
追い詰められる。頭が止まる。思いが駆けぬける。フラッシュバック的に甦る。あの懐かしい日々。
守りたかった日々。出来ればずっと一緒にいたかった。一緒に治療したかった。一緒に元気になりたかった。涙が溢れる。
一緒に、帰りたかった。
「お前は誰だ!」
《やめろ一騎!》
ジークフリードシステムからの強力な信号を圧倒的な意志で拒絶する。
「お前に何がわかるっ!総士が目の前にいるんだ!帰って来たんだ!」
総士を撃った。
轟音。砂と海水が爆散した。地面を直接撃ったようなものだ。
あまりの近距離に、泥が顔にまで跳ねた。
その泥を、拭う。その間に、一騎の一撃で押し退けられた波が戻ってくる。
大粒の涙が頬を伝い続けた。お湯のようだった。体中熱かった。
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