come home 2
ザインから降りた。
コックピットのハッチが開いた瞬間、リングから指を引き抜いて転がるようにして出ようとし、
落ちた。砂浜に転がる。起き上がろうとして、全身に力が入らず、そのまま砂浜に這い蹲った。顎から滴る涙が、
小さな皿のような形に砂を固め続ける。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
「ゴメン総士・・・でも・・・俺、こうしなくちゃならなくて・・・・・・お前と約束して・・・。だって・・・
そうするって・・・約束したじゃないか・・・なぁ・・・。約束、まだ覚えてるんだ。お前の声で
・・・・・・お前の声を、まだ、覚えてるんだ」
ほとんど素肌が剥きだしの体に、風が痛い。
「なぁ・・・お前・・・どっちだったんだ・・・?」
波が、落ち着いたのを感じる。顔を上げることが恐くてたまらなかった。でも、波しか無くなってしまった海を見なければ
ならなかった。砂ごと拳を握り締める。とても冷たい。あっという間に感覚が無くなる。p
顔を上げた。
浜に総士が、立っていた。
「必ず帰ると約束した。お前如きに阻まれてたまるか」
淡々とした声が、嬉しくてたまらない。
『どっちだったのか』
一騎の攻撃を防ぎきった総士は間違いなく人じゃなかった。
見下ろしてくる総士と、真っ直ぐ目が合った。
コックピットの中には、非常用の装備がある。その中には銃もあった筈だと、朧気に記憶していた。
それを取るために、ふらふらと立ち上がる。
総士との約束を守らなければ。
島を、守らなければ。
「僕をどうする?一騎」
さらに島に向かって歩む総士。声も、姿も、歩き方も、全て、一騎の記憶のままの。
このままだと行ってしまうと思った。この先にある、皆が守ろうとした、大切なものが全ている場所へ。
総士の腰にしがみついた。
冷たさで体中痛い。総士を確かに握ってる感覚が無い。
また新しく爪の間が裂けて、総士の白い制服に朱の線をつけた。
「僕はもう、人ではない。どうするかは、お前達次第だ」
総士の声に震える。
勝ち負けじゃない。
最初から知っている。
島は共存を選んでる。
なら、共存すべきだ。
共存していいのなら。
「・・・・・・敵じゃないならいいんだ。そこにいるだけの存在なら。それだけなら。でも、それ以上することは許せないんだ」
「僕は・・・それ以上はしない。敵か、敵でないかを決めるのは、ソロモンではなく僕だ。そして僕は、
僕が一体何であるか証明するのに、真壁一騎を必要としない・・・・・・お前の思考は読んだが・・・・・・」
「俺はっ」
総士の体に縋りついていた。
「俺はお前のことっわからない!」
冷たい風を吸うたび、体の中が痛い。目が潰れそうだ。
やけにシンとした空気の中、総士の声が聞こえた。
「この島で・・・最初に見たのがお前だった・・・・・・ホッとした。お前が待っていてくれたことが、どれだけ嬉しかったか・・・。
島に戻って・・・たとえお前がいなくても、お前がいて、お前が大切にしていた場所を守り抜こうと覚悟していたのに・・・・・・
ちゃんとお前が・・・一騎が生きていてくれた。しかも、凄く元気だった」
気付く。総士が頭を撫でてくれている。慰めようとしてくれているのだ。それは、一騎のことを総士が大切にしようとしてくれているということで、
思いやりで・・・・・・思いやりは、人しか持たない。
渾身の力を込めて、総士を浜に引き摺り落とす。並んで互いを見詰め合って、抱き合った。
手を繋いだまま迎えを待った。
「ぎりぎりで間に合ったな・・・・・・僕は」
総士の言葉に項垂れて頷く。
嬉しいような、申し訳ないような気持ちで一杯で。
一人じゃもう駄目だった。
これ以上できなかった。
近づいてくるものが敵か味方か見極めるなんてゆとりは掻き消えていた。
全部を拒絶して、全部から守るしか。
総士に握られた手の傷が痛む。
確かに握られていると、思った。
END