定義など無い(後編)
「その後はずっと、一騎のことを考えていた。アルヴィスに行かなくてよければ食事は既に用意されていたし
メモリージングは眠っているうちに勝手にされるから、他にすることも無くて。そのころにはもう今日を諦めていて、
はやく明日になってお前に会いたいと・・・・・・」
途中から総士の声は弱くなり、とうとう途中で止まってしまう。
不思議そうな顔をしてこちらを見てきた。
なんで総士が途中でやめてしまったのかはわからないけれど、そこまで聞ければ十分だった。
重かった気持ちが吹き飛んで、笑顔が止まらない。
こちらの気持ちを告げたい!!
「俺はっ・・・・俺も総士と離れたくなかったんだ。だけど家での仕事がたくさんあって、晩御飯も作らなきゃならなくて
・・・だから振り切りたくて走ったんだ。もっと前は総士がたくさん泊まりに来てくれただろ?またああならないかって
ずっと思ってた。結局、前みたいになることは無かったけど・・・・」
声が落ちた瞬間を狙って総士が謝ってくる。
総士は、謝っちゃいけないのに!!
「僕の訓練が本格的になったんだ。だから・・・・」
遮った。
もっと大きな笑顔を浮かべた。
「でも、ずっと一緒だったんだな」
良かった、総士が言葉を失った!!
「総士が俺のこと考えてるときに、俺が総士のこと考えてて、でも、総士が俺のこと考えてくれてても、
俺は家のことやってる間だけはお前のこと考えられなくて。・・・・今度はお前が島のことを考えてるときは、
俺はお前に・・・・」
「すまない一騎、それは・・・・」
すかさず口を挟んできた。
自分の失態に舌打ちするけれど、もちろん総士に気づかれないようにやった。
大きく、大きく笑う。
「いいんだ。お前の考えてる島の中に、俺はいる」
総士の表情が、ぼぅっとなった。
それと同時に黙ってくれた。
ここまですれば、変な言葉が総士から出ることは無いと思う。
「何だか・・・・・総士と話してたら落ち着いた。総士が起きてくれるまで不安で・・・・総士に遊ばれて、
いろいろ我慢できなくて最悪だったのに。やっぱり面白いのかな、俺」
うってかわって、静かな声を出す。
総士が、まじまじとこちらを見つめてきていた。
「遊んだ覚えはないぞ?」
「だってさっき・・・・」
「僕が寝ていたらお前が急に触れてきたんだろう?どうしていいかわからなかったから、ずっと目を閉じて動かずにいたんだ。
大体、いきなり乗り上げてきてスカーフを剥いでくる人間に、どういった対応をすれば・・・・・・」
「俺のこと、馬鹿にしてたんじゃないのか?」
「バカなっ僕は熟睡していた!!」
詰まった。
総士が、もう少しまともだと思っていたなんて言える筈が無い。
「それじゃあお前の寝顔最悪だぞ!!人のことバカにしてるようにしか見えない!!」
「知るかそんなこと!」
「なっ人がどれだけ・・・・・・」
全ては、勘違いだったと。
まっすぐに言われて、今度こそ何も言い返せない。
勝手な思い違いをして、恥ずかしい。
あきれたのか、総士がまた、ため息をついた。
ため息が消えたと思ったら、頬に感触があった。
総士の指先が、頬に触れていた。
「総士」
あまりにも唐突に叶った願い。
そして重ね続けられる、信じられない言葉の連続。
「こんなことで一騎の不安が消えるなら、いくらでも触れてやる」
手のひらも、頬につけられた。
温かかった。
「さっきから全部を笑って消そうとして、酷いぞ。・・・一騎」
いとも簡単に、全てをふっとばされた。
「違う、俺は嬉しかったんだ。総士、間違えたよ。俺は楽しかったから笑ったんだ。お前と話せて・・・・・・」
「泣きそうで、震えていて、何か怒っていて、必死で笑って誤魔化していた・・・・・・僕のせいか?」
「違う!」
大声で突き放してしまった。
でも、追いかけてくれて嬉しかった。
総士の言ったことは、きっと全部あっていた。
両頬に、総士の手が片方ずつ添えられる。
「こうして欲しかったんだろ?」
総士が触れてくれれば、今までがむなしいくらいに彼を感じた。
「お前が急に泣き声を上げだすから、目を開けたんだ」
・・・・・・ようやくちゃんと、顔をあげられた。
多分、歪んでいた。
「ごめん・・・・・・俺、大事なときなのに不安定で、しっかりできなくて・・・・・・」
言った途端に、総士の手が離れていった。
・・・・・体温が残った。
寂しいと、思う。
思ったと同時に感じる圧迫感。
何が起きたのか知りたかったのに、真っ暗だった。
でも、見なくてもわかれた。
総士に抱かれてる。
声が聞こえた。
「大丈夫だ」
体が震えた。
幸せだった。
総士が確かで、温かくて、絶対に総士で。
小さく鼻をすすったら頭を撫でられた。
安心した。
そうしたら、体勢が辛いことに気がついた。
一度、総士の腕の中から抜け出る。
総士が何度目かの、不思議そうな顔をしていた。
また総士に勘違いをされたらイヤだけれど、今度は、腕ずくで止めようと思う。
「総士、あと何時間ここにいる?」
やっぱり、勘違いをしたようだ。
「自室に・・・・・・戻るべきだろうな」
そういって、いきなり立ち上がろうとした。
だから、上から覆いかぶさって結果的に押し倒し、制服の上から総士の上に、顔をうずめる。
「一騎・・・・・・」
「もう少しだけ」
もうしないとは言はなかった。
まずは、誤解を解こう。
「”もっと一緒にいたい”って言ったんだ」
そう言うと、総士がまた頭の上に手を乗せてくれる。
ごめんなさいの印で、自分はそれを待っていた。
答えるために、そのまま体を総士に預ける。
温かさが、泣きたくなるほど心地よかった。
*** *** *** *** ******
翌朝、遅刻寸前で学校に駆け込んだ。
休憩室の一人用の椅子で二人して寝たために、下敷きになっていた人間がエライ目にあったのだ。
痺れすぎて感覚のなくなってしまったらしい総士の腕等々、治そうと揉み解しているうちに
あっという間に時間がたってしまって・・・・・。
”ごめん総士っ俺!!”
慌てる一騎はさっさと総士に送り出される。
そして着席した瞬間、何故だかこんな時間にも関わらずパイロット仲間に取り囲まれてしまった。
開口一番
「「「「「「昨日は総士とどうだった?!!」」」」」
「どうだったって・・・・・なんで一緒だったって知ってるんだ?」
しまったと思った。
動揺して、一番してはいけない問い返しをしてしまった。
総士になりたい!!
仲間達は、うろたえきったこっちを無視して喜びあっている。
「だって昨日は一騎君と皆城君の真ん中だったでしょ?だから、何かしたのかなぁって思って」
「そ、そんで皆で話してたんだよ。やぁ〜っぱ一騎は総士と一緒だったなぁーーー」
「えっちょっ真ん中ってなんだよ」
「一番大事な人の誕生日と、自分との誕生日の真ん中の日。で、何したのぉ〜?」
仲間の口からそんな言葉が漏れると同時に顔が熱くなる。
恥ずかしかったのではなく、嬉しかった。
そんな大事な日に、総士と一緒にいることができた。
一番の笑顔でこたえる。
「総士と寝てた」
仲間の顔が、笑顔のまま動かなくなった。
END
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