やぎ座おとめ座


十一月八日。

《ごっめんなさぁ〜い、今日の最悪の運星は、やぎ座です!!やることなすこと全て裏目、仕事運は最悪っ

やってもいないことで濡れ衣着せられて怒られちゃうかも!!怪我にも充分気をつけて!!やぎ座の皆さんは、

今日は外出しないことをおススメしますっ!!不運を払うラッキーアイテムは・・・・・・》





 食事中はテレビを点けない筈だったのに、その朝はたまたま点いていた。

で、言っていたのがこの内容。卓袱台に置きかけた箸がそのまま床に転がり落ちた。

「嘘だろ・・・・・・」

一年ぶりくらいに見た星占いだった。

中身が中身と星座が星座だけに思わず凝視。

置きかけたお椀も傾いたまま停止して・・・・・・・。

「一騎っ味噌汁!」

「うわぁ!!」

一品減った。

がっくり落ち込みながら台布巾に溢した味噌汁を吸わせる。

その間、何も手伝わない父が抜け抜けと言ってくる。

「乙女座は真ん中辺りだったぞ」

だからこれ以上悪いことは起らないと、そう言いたいのだろうがこっちは全くそれどころじゃない。

「行ってくる!」

大急ぎで漬物で白米をかきこんで、洗いは任せて跳びだした。





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「で?」

目の前の椅子で優雅に足を組む総士に、お前もそれどころじゃないのだと絶叫しかける。

「だからっっ」

それを一生懸命飲み込んで、代わりに全身全霊を込めて訴えた。

曰く、この島に占い師なんていないのだから、ニュースの星占いはそれよりもっと正確なシステムが弾き出した結果

だろうと。

曰く、ってことは、それなりの根拠とデータが揃っての完璧な発表なのだから、お前の運の悪さも今日は島のお墨付き

だろうと。

だから、今日は何もしないでいろ、寝ていろ、と。

が、努力もここまで全力で駆け抜けてきた労力も、あっという間に一蹴される。

「バカバカしい」

爽やかな笑顔で跳ねつけられる。

同時に怒られているのだとわかる、爽やかすぎる爽やかさだ。

「それはっっそうだろうけど・・・・・・」

朝一番に血相を変えて駆け込んできた一騎に、何だどうした何があったと緊張しきって聞いた答えがこれだ。

若干キレてもおかしくない。

「わざわざすまない。だが、そんな理由でいちいち休むわけにはいかないだろう?」

「そんな理由って・・・お前・・・」

「そんな理由だろう?」

なおも縋ろうとした瞬間、間髪いれずに念押しされる。

まぁ・・・そうだろうと。

笑顔の圧力に負けてこっくり頷いた時。



総士が落ちた。



「はぁ?!!」

突っ込みと焦りが混じった叫びが自分の口から出たのがヒトゴトの様。

一体何が起きたのか。

 スローモーション。

総士が椅子に腰掛けなおして。

背もたれに寄りかかって。

背もたれがアッサリ折れて。

背もたれと一緒に総士が背中から落っこちて。

長い足が華麗に上がって、同時に後頭部をモロ打った音が大きく響いた。

《ゴンッ!!》

「総士?!!」

慌てて駆け寄るも、助け起す前に自力で起き上がる総士。

しきりに打った箇所を擦りながら、恨めしげに椅子を睨む。

「だかっ・・・」

だから言ったろう?を言い終わる前に総士が言う。

「違う」

星座のせいでは無いということか。

「睨まなくてもいいだろう?!!」

椅子に向けていた表情がそのまま一騎に向けられる。

相当ムカついたらしい結果の八つ当たりに、半ベソをかいた。

「わかってる!!」

明らかにわかっていない、大人気ない叫び。

そのままふらふら立ち上がって、洗面所の方へ消えた。

水の音。

水の音。

止まらない。

「総士?!」

帰ってこない総士を気にして覗き込めば、覇気の無いボンヤリとした表情の総士と目が合った。

「・・・・・・取れた」

差し出されたのは、蛇口。







 「ラッキーアイテムは抱き枕!ラッキーナンバーは9!ラッキーカラーは黒!抱き枕を抱いて静かに寝ているのが

吉!!」

朝、占いで言っていた言葉を復唱する。

総士をベッドの上に追いやり、枕を抱かせ、黒マジックで「黒」と書いた紙を持たせて。ついでに備品コーナーから

残り8つの枕を借りてくる。

「いいか、今日はもう絶対動くなよ!!動いたら死ぬからな!!」

「ああ」

ベッドの上から、神妙な顔をして総士が頷く。

一瞬可愛いなとも思ったが、今は構っている場合ではない。

全部用意をし終わって、もう用意するものは無いかと辺りを見回す。

「いくらなんでももうベッドに乗らないぞ?」

「わかってる!!」

でも少しでも、不運を回避させられるのなら何だってする。

そして、思いついた。

「ラッキーナンバーは俺の誕生月!ラッキーカラーは俺の髪!俺を抱き枕にすればいいんだ!」

「正気か?!!」

抱き枕を抱いたままの総士が悲鳴に近い叫びを上げる。

悲鳴ごと、ベッドに押し倒した。





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十一月九日。

《ごっめんなさぁ〜い、今日の最悪の運星は、おとめ座です!!やることなすこと全て裏目、金運最低!出かける途中で

お財布落としちゃうかも!!幸せも落としちゃうから気をつけて!!おとめ座の皆さんは、体調管理にご注意!!

いつも元気な人ほど倒れちゃうかも!!!!不運を払うラッキーアイテムは・・・・・・》

翌日。

その日こぼした味噌汁は、しっかり座布団にまで染みた。

同時に、電話のコール。

「はい。真壁です」

《一騎か?今日は訓練に来なくていい》



ラッキーアイテムは鍋。ラッキーナンバーは6.ラッキーカラーは赤!みんなを誘ってお鍋パーティがいいかも!!



「・・・・・・総士が鍋持ってきてくれるのか?」

鴨がネギ背負ってやってくるような感じで・・・・・・。

《鍋か・・・・・・わかった》

外出はできないのだから、総士がきてくれなければ困る。

不運どころか総士が来てくれるだけでラッキーな気がして、ほくそ笑んだ。





END