暗闇

 戦闘中、うっかり喰らった攻撃のせいでザインが半壊した。

よっぽど酷かったのかどうだったのか、こっちが認識する前に、総士の手によっていきなり全システムが落とされた。

ペインブロックも、ジークフリードシステムからの合図も、全くない。

いきなり真っ暗。

(乱暴だ・・・・・・)

一切光りの入らない空間に1人残される心細さを知った上での判断だったんだろうか。

総士は。

「総士―・・・・・・」

呟いてみても総士からの応答は無い。気配すら無い。

ザイン自体が総士からのコントロールによって強制的に鉄塊にされているのだから、仕方ない。

(本当に全部のシステムが落とされたんだな)

改めて、思った。  

それだけ物凄く壊れたんだろうか。

それだったら二人揃って痛みに悶絶するのもバカみたいなわけで、今の状態は仕方ないとも思えなくもない。

(別に・・・恐いわけじゃない)

闇を睨む。 心細いけれど、そんなのはいつもだ。

(恐くない)

 ここは、あまりに自分の心象風景と合致しすぎていて、気味の悪いほど居心地が良かった。

心細さや不安とは、いつも一緒にいた。

 戦いの間の気分の高揚が落ち着いてみれば、完璧に外から断絶しているわけではなく、僅かに振動が伝わってくるのがわかった。

慎重に進められているコックピットブロックの取り外し。手作業なのかと思うぐらい、呆れるほどの小さな揺れだった。

出られるまで、あと何時間かかるだろう。 ・・・総士に、大丈夫だと伝えなくては。

 唐突に思った。

どうかしている。 自分は、あと何時間総士を放っておくつもりだったのだろうか。

苦しんでいるふりをして、驚かすのもいい。

そのあとで無事だと、笑って言ったら総士も笑って返してくれそうだ。

楽しみだった。

真っ暗な中、感覚を研ぎ澄ます。

外の音は、全く聞こえない。

伝わってくるのは、なんとかしてコックピットブロックを取り出そうとしている、細かな振動だけ。

他のファフナーであれば無理だったけれど、ザインなら・・・・・・ザインなら、総士を無視できた。

アルヴィスに調節されてしまってからは、そんなに長い間は無理だったけれど。

ほんのちょっとの我儘ぐらい、できた。

 総士に、一言だけ伝えられればいい。

怪我も、何もなく、無事だと。

暗闇を掻き分けて、総士を探す。

「総士っっ」

遠くに、見つけた。

見つけたと同時に、濁流が流れ込んだ。





*****     *****     *****     *****     *****





 繋がる。

叫ばれた。お前は何処だと。

ここだと、返した。無事だと。伝わらなかった。全く、届いていなかった。

ただ目の前に、総士。

いつもと立場が逆。

総士が考えていることが、手に取るようだった。

してやったりと笑うはずだった。

そんな余裕はどこにもなかった。

繋がった先で起きていることが信じられない。

「総士っっ」

冗談を言うつもりが、吹き飛んだ。

「怒らなくていい!!怪我なんかしてない!!」

こんな総士は知らない。

作業の遅い人たちを、殺してもいいぐらいに思っている。

入る連絡の一つ一つに怒り狂って返す。

(なんで・・・そんな・・・。総士・・・)

浮かんだ問いにザインが応える。ジークフリードシステムに単独で侵入し、情報を盗む。

問いの結果に、たまらず叫んだ。

「怪我してない!!元気なんだ!!」





 何もわからない。わからないのが怖い。一騎が怪我をしてたらどうしよう。取り返しのつかないことになっていたら?

一騎が動けなくなっていたら?手当てが必要だったら?ザインは停止。処置ができない。処置ができない。できない、何も。

せめてコックピット・・・・はやく・・・。





「総士!ファフナーを起動させてくれ!!一瞬でいい!!」

痛みに気を失うかもしれないが、無事は伝わる。

 ファフナーの限界だった。

総士に逆流することはできても、総士を読み取れても、そこまでだった。

それ以上はザインでも・・・・・・ザインもファフナーであることに代わりは無い。

実際に繋がって、会話をするなど。

(そんな・・・無理だなんて・・・・・。駄目だ・・・だって総士が・・・そんな・・・怒ったら・・・こんなことで・・・)

入る通信や報告を、睨み、怒鳴り返し・・・・・・全部一騎のせいだ。

一騎のせいで総士の信用が落ちる。

一騎のせいで総士の立場が悪くなる。

一騎のせいで総士が間違えられる・・・・・・。

それだけはあってはならない。

神様が駒を愛したことで堕ちることなどあってはならない。

絶対に!!

「う・・・ぁ・・・あ・・・ああぁあぁぁあっっ」

あちこち接続されて動けない中、限界まで暴れまわる。

少しでも外に、中が伝わるように。

パイロットは無傷でこれだけ暴れまわれるぐらい、元気なのだと。

急がなければ。

総士の資格が剥奪される前に。

総士が疑われる前に。

総士が敵に囲まれる前に。

翼を切られたらおしまいだ。

神様が堕ちる。

裁かれてしまう。

 暴れる。

ほとんど動けない。

ほんの少し、カタカタいうだけ。

音が聞こえない。

総士がっ・・・・・・。







こんなに心配なのに、何も伝わらない。



END