やめてくれ
皆城君が、ブリーフィングのときに小さく咳を二回、それから鼻を一回すすりました。
そしたら一騎君がぶっ壊れてしまいました・・・・。
ダッシュで皆城君に駆け寄って、寝ろだの休めだの大騒ぎ。
皆城君は笑顔で一騎君を宥めていましたが、肩にいつもより力が入った上に、顔におもいきり
『うざい』
と書いてありました。
一騎君が気づけないのも一種の愛の力だと思います。
こればっかりは仕方がありません。
というより、ウザイとしておきながらもまんざらではなさそうな皆城君の方がウザイです。
しかも自覚してない分始末におえません。
さっさとちゃんと話し合ってくれれば少しは自覚してくれると思うので、いい加減何とかして欲しいです。
見てる私がムカつきます。
見せ付けられてる皆も困ってます。
皆城君、次の会議が終わったら絶対に休むといってますが、あれ、嘘です。
その程度なら一騎君でもわかるのか、
「絶対だな」
を繰り返して詰め寄っています。
あ、今、皆城君が一騎君の口封じに入りました。
ちょっと小首をかしげてウル目です。
若干顔の傷を一騎君に向けてます。
私があんな真似されたら崖から突き落として落石のおまけまでつけてやるのだと思いますが、
一騎君はそれだけでもうぐにょぐにょしています。
なんか皆城君のことわからなくてごめんとか抱き締めて謝ってますが
肩越しの皆城君の顔は死んでます。
それから皆城君は私達に向けて《さっさと行け》と合図を送りました。
一騎君が皆城君を抱き締めたまま放さず、動かなくなったので
ああ、そういうことだな・・・・・・・と皆思いました。
私達が出て、少し歩いていったら出てきた会議室がドタンバタンと煩いです。
さらに少しして、スカーフと上着を抑えた皆城君が私達を一気に抜き去っていきました。
一騎君が、ほんの少し遅れて廊下に飛び出してきて、エレベーターに駆け乗った皆城君に舌打ちしました。
一騎君は一騎君でああなるとあと2.3時間は真壁様なので、付き合う私達も相当疲れます。
皆城君の「み」でも言おうものなら噛み付かれます。
盗るな触るな近づくなと凄いです。
皆城君、愛されてるなぁと思う半面、最近は、皆城君の「み」も水ようかんの「み」も同じな気がしてきました。
皆城君は真壁様のものですから安心してください。
その皆城君ですが、会議の後すぐにぶったおれたそうです。
溝口さんがそういってお母さんのところに皆城君を背負って駆け込んできました。
皆城君は顔が真っ赤で汗も酷くて、なんだか弱音を吐いていました。
すぐにベットに寝かされて、私が氷を用意しているあいだに点滴をうたれてました。
針を刺し終わって、お母さんに二時間くらい寝てれば良くなるといわれて、ほっとしてました。
けれど、点滴を始めてか30分もしないうちに一騎君がとびこんできました。
皆城君のうんざりした顔といったら・・・・・・。
*** *** *** *** *** ***
「僕は・・・・・・死ぬかもしれない」
ベットの上からわざわざ言葉に出したにも関わらず、遠見の手の中にはソレがあった。
それどころか、大して聞いていない証である相槌までうって、コチラに近づいてくる。
「点滴針の穴って見えないんだね」
僕の右目まで潰す気か遠見っ!!
いきなり目前に突き出すなっ!!
せめて《針の穴がホントに見えないか貴方にも確かめて欲しい》ぐらい言え!!
「み、みえないな・・・・」
「そだね」
クルリとこちらに背を向ける遠見に、安堵の息を吐く。
ああ、今脳裏に昔見た映画がよぎったぞ・・・確か、「ミザリー」だ。あれは、こわかった。
って、何でキミがガーゼを持ってるんだ!!!
「えっあっ・・・・遠見???」
「消毒。それぐらいならアタシできるから」
できるとかできないとかそこで止めていいんだな遠見っ
針を刺すのもできないけどやってみるとかまで想定しなくていいんだなっ
絶対だな絶対だな絶対だな!!!
無駄に・・・キミが腕をさする度に動悸がするのは何故だろうか・・・・。
てか、キミのお母さんは何をしているんだろうな。
予算の削減はしてないはずなんだがな。
弓子先生も遠見がてらに庇ったのにな。
あれかな、遠見がパイロットになったからって嫌がらせかな。
そういや報告書に悪口いっぱい書いちゃったもんな。
査問委員会のときも「ちっちゃい頃からありえない」みたいなこと言っちゃったもんな。
お母さんにとって自分の子供の「ちっちゃいころ」なんて、天使降臨だもんな。
他はみそっかすで。
そうか、どこの馬の骨とも知れないみそっかすに天使を「ありえない」呼ばわりされたらこれぐらいしてきて当然か。
一応僕は、校長の・・・前司令の長男として頑張ってきたつもりなんだがな。
「みそ」で「かす」に見えるんだな僕は。
島唯一の医者が島の人間をそんな目で見つめられたらおしまいだな。
・・・・他に比べる医者いないしな。訴えられる心配はないよな。
ああ。
弓子先生にも聞いてみよう。今度は僕は何だって言われるのだろうか。
遠見いわく「ミジンコ」ときて遠見先生の「みそ」だからな、「み」だから・・・・・・
あれ?もしかして「皆城」の「み」でつながってる???
それとも「みじめな子」が音便化して「みじんこ」かな。
だから今僕はミザリー体験してるのかな。
「皆城君、血管よく見えるね〜。なんかアタシにもできそうかも」
!!!!!!!っ
ダメだ逃げよう逃げたいそこどいて!!
「イヤだ怖いっ」
「大丈夫だって、ちゃんとお母さんやってくれるし・・・・・・」
今となってはそれすら怖いんだ!!
「あれ?それとも皆城君、まだ注射こわいの?」
・・・・・・あ、今千鶴さんと目があいました。
大丈夫ですかって目で合図したら、微笑まれました。
「大丈夫よ、心配しないで。二時間も眠っていれば良くなるわ」
あ、僕の勝手な妄想ですか。
ちょっと無理矢理針突っ込まれた感が否めませんが、ありがとうございます。
この際痛いなんて文句が言える体があるだけでも幸せですから・・・・・・。
・・・・しっかりしろ僕。
「総士っ!!」
おや?一騎かな。
さっきは嫌がってごめん。
でも今はお前に会えて最高にしあわせだ。
・・・・もう疲れたよ。
*** *** *** ***
「総士っ!!」
俺が駆けつけたときには、総士はぐったりしていて・・・・・・。
どうしてパイロット同士のブリーフィングのときに殴ってでもここにつれてこなかったのか、後悔する。
熱出してるのに総士は制服をしっかり着込んでいて、苦しいだろうと脱がしかけたら逃げられた。
それともその時に暴れさせたり走らせたりしたせいで、倒れるぐらい熱出させたのか?
俺が、やっぱり悪かったのか?
そっと手を握ったら、握り返された。
こういうことは、多分公認になっちゃったんだろうと思う。
遠見先生も、遠見も笑ってたから。
ん?心なしか総士の握力強いな。
なんかこう・・・・・・命がけでしがみ付いてきてるみたいな。
不自然に見つめてくるし・・・・。
何か言いたげだったから口元に耳を寄せた。
「総士、何?」
「一騎、確かめてくれ・・・・」
「何を?」
「僕の点滴のクスリが、うっかり故意に間違ってないか・・・・」
総士・・・お前・・・。
ほんとに疲れてるんだな。
もう大丈夫だからな、俺が居る。
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