過去・現在・未来
総士が喜ぶのは褒められたとき。
『良い子だ』と褒められた時、一番の、しこたま嬉しそうな顔をする。
それは、一騎にもめったに見せないような顔で。
だから、総士が頑張れる理由とか、ふとした隙にすぐムチャをするのは、きっとここの辺りが関係しているんだと思う。
(別に、それを嫉んでいるわけじゃない)
総士の部屋で、総士のソファーに腰掛け、背後から総士の作業を見守る。
今は、後で発表か何かに使うのか、やたらと沢山入力している。
たまたま一騎が覗き込んだとき、物凄く綺麗なグラフが出来上がっていて、少し感動した。
好きでやってるからだ・・・・・・と、直感的に理解する。
褒めてもらいたい一心なのだ。きっと。
靴を脱いで、ソファーの上で膝を抱える。膝に顎を乗せ、総士の背を見守る。
顎が痛くなってきたころ顔を上げ、総士のパソコンの中の時計を見た。
「二時だ」
無駄だとわかっていて、いつものように教える。
「もう少し」
いつもの答えが返る。
カチャカチャと、総士の手が止まらない。
静かなせいと、総士の立てる音が単調なのと、二人の人間が狭い場所に固まっているせいでの温かさに、一気に睡魔が襲ってくる。
「俺は寝るよ・・・総士」
様子を伺えば、総士は電子画面を覗き込んだまま頷く。
もう少しのラストスパートなのだと雰囲気で感じて、大人しくソファーの上に寝転がる。
総士の机灯りが眩しいので総士の方に足を向け、常備した毛布を抱き寄せる。
ソファーの背に顔を押し付けるようにして目を閉じた。
いくら好きなことであっても、明日の思考を鈍らせるようなまでのムチャはしないのだとようやく気付いた。
結局、自分は総士を構いすぎで、何もしなくても総士は総士で勝手にやって、程よく休んでいた。
自分がしていたことは、ほとんどがお節介だったと知ったときはショックで。
むなしくて・・・・・・自宅に帰るのを止め、総士の部屋に泊まるようにした。
無理矢理にでもそうすればパイロットの睡眠時間の管理にも積極的になるのではないか
・・・用は、一騎が眩しくて眠れないというフリをすれば、総士も少しは早く電気を消すのではないかと、そんな淡い期待の、静かな反抗。
成功だった。
想像通り、一騎が頭まで毛布を被りいつまでも寝返りを打っていると、30分もしないうちに総士は明りを消し、ベッドに横になる。
(俺だってこんな風にしたいわけじゃないんだ)
ただ最近、一騎が帰って来てから。
総士は得に頑張るようになってしまっていて。
程よく休むのではなく、ほんの少し無茶をしていて、その無茶が重なって、昼間の欠伸になり、人の話を聞き逃すことになり。
そしてそれが何時の日か、何よりも総士が嫌がる『ミス』に繋がるのでは無いかと気が気ではなくて。
がっかりする総士を見たくなくて、総士の部屋に泊まりこむ。
総士が怒られてしまったら、もう立ち直れなくなってしまうんじゃないかと心配で。
ほんの僅かでも総士に無茶はして欲しくなかった。
それならば、誰も、一騎自身も、総士を褒めなければ良かった。
そんな恐いこと、できるわけなかった。
END