トランプだの枕投げだの大騒ぎした一夜が明けて、合宿メンバーは二人を除いて一枚の蒲団を見下ろしていた。

“ねぇ、これってアリなの?”

咲良が隣の剣司に囁くと、剣司は困り切った視線を衛に向ける。向けられた衛は“ボクに聞くな”と言わんばかりに両手を振った。

「なんだまだ寝てる奴がいるのか?」

じゃんけんで負けた道生が6人分の敷き布団を抱えたまま首を突っ込むが、すぐにその表情がゆるんだ・・・一枚の蒲団で気絶したかのように寝こける

戦闘指揮官と、その指揮官を抱き枕のように抱えて眠るエースパイロットを目にとめて。

「疲れてんなぁ・・・目覚ましは?」

「みんな鳴る前に勝手に起きてたから、平気かなと思ってボクが・・・」

衛の言葉に頷いて、道生は上から二人を覗き込む。

 その顔の隣に弓子が並んだ。

「幸せそうねぇ」

両手を胸の前で合わせて楽しそうに言う。

「どっちかって言うと総士が苦しそうに見えるけどね」

と一歩引いた位置で言う咲良。

「総士なんか固くて気持ちよくないと思うけどな」

と剣司。

「高さが丁度良いんじゃないの?・・・枕にさ」

と衛。

一枚の蒲団の周りに集まった人間が、口々に好きなことを言っていく。

「皆城君体温低いから冷たくて気持ちいいんだよ、きっと」

「なるほど、だからこの気温の中ここまで絡みついていられるわけか」

 カノンに相槌を打たれた真矢が、二人の寝顔にカメラのシャッターをきる。当然フラッシュはたかれたのだけれど、二人が起きる気配はなかった。

「起きないねぇ」

呆れ声でカメラから目を離した真矢が言う。

「お姉ちゃんこのままじゃ朝ご飯運んでこれないよ?」

「そうねぇ・・・」

島で評判の二大少年の寝顔を堪能してから、弓子は道生を向いていたづらっぽく笑って見せた。

以心伝心、笑みを見せる道生。

そして突然、命令口調でカノンに訊ねた。

「カノン、どう思う?」

突然のことに動揺しきったカノン。相手が他でもない道生であったこともあり、つい・・・。

「き、起床時刻の遅延は規則を乱すその最たるものであり・・・げ、厳罰に・・・」

染みついてしまった習慣はすぐには抜けないのか、気をつけ敬礼直立不動の姿勢をとって・・・つまりがちがちに固まってこれに応えた。

・・・つまり二人を売った。

「そう、厳罰だ」

道生がニヤリと笑って弓子を見れば、弓子は既に三人分の掛け布団を抱えている。

咲良、剣司、その他含めて全員が、何かしら蒲団を抱えたことを確認すると、道生はついに、号令をかけた。

「かかれっ」
反応反射音速光速言ってしまえばスピード勝負。規則違反者が寝ぼけている間に蒲団を山にし積み上げる。

「二人とも!起っきなさーい!!」

山の完成と同時に、弓子、咲良、真矢が山の上へと跳び乗った。

「オレ達も行くぞ!!」

道生、剣司も後から続く。・・・最も女子の上に乗るわけにはいかないので端の方に腰掛けただけだったけれども。

これが返って閉じこめられた二人の脱出路を塞いだ。

「いーい?2人とも、三人揃ってジャンプよ?」

弓子の提案に元気な返事。しかし流石に道生が慌てた。

「え?ゆ、弓子?」

「厳罰でしょ〜う?これくらいしなくっちゃ」

顔の前でひらひら手を動かして、嬉しそうに弓子が笑う。

「し、しかしだなぁ」

「言わない言わない、もう2人共起きちゃってるんだから」

蒲団の下で2人が藻掻く動きが伝わってくる。そもそも、島一番の運動神経を持つ男と、それなりの体格をしている人間が下敷きにされているのであって、上に乗った3人はバランスゲームだ。

女3人と全員分の蒲団とはいえ、若干持ち上げられつつあった。

「よし!みんなでゴーバインクラッシャーだ!!」

仮面を付けた衛の指揮に、皆がノリノリで合わせる。

剣司とカノンが蒲団が崩れないように必死で押さえた。

「いくぞ!!ゴーー」

真矢、弓子、咲良が同時に跳び上がる。



「バイン!!」



・・・潰れた蒲団、いや中身。

「だ、大丈夫かぁ〜?」

こうなってくると、発案者が一番後味が悪い。

慌てて生死の確認・・・するまでもなく山が大きく揺れ、乗っていた女子3人がずり落ちた。

 一番下の蒲団と敷き布団との間にわずかながらの空間が出来、そこから埋まった2人のどちらかが潰されて咳き込む声がする。

力む声がそれに重なり、さらに空間が広がった。

「大変!2人が出ちゃうわ!!」

遠見姉妹と咲良がすぐによじ登る。

蒲団の下の人は一瞬潰れたが、そのあとは3人分と蒲団の重さをものともしないといわんばかりに蒲団が持ち上がっていった。

道生と蒲団押さえ組、そして上の3人があっけにとられ、ぽかんとした表情でみるみる上がっていく蒲団を眺めた。

「すっげ馬鹿力・・・」

やがて隙間から一騎が肩口まで出る。

蒲団を一人で持ち上げていたのは・・・一騎。

目で見てわかるサヴァン症候群。


そこまで出てきた一騎であったけれども、それ以上は動かなかった、

そのままさらに腕を腕を突っ張り、腹の下の空間を広げる・・・もちろん女子3人、上に乗せたままだ。

「総・・・士!先出ろ!!」

それでもやはり女3人と山蒲団を支える腕は、大きく震えて赤くなっていく。

 一騎の腕の間から、色白総士が這い出てきた。

咳き込んでいたのは総士であるようで、蒲団から抜け出た後も畳に突っ伏す。

「カノン!総士出たか?」

一騎の頭の上の蒲団を抑えるカノンに、一騎は叫んで問いかけた。・・・必死に。

「あ、ああ。出た。出たぞ」

「そ・・・か・・・良かっ」

伏せていた総士が顔を上げる。

残した一騎を引きずり出そうと総士が戻りかけたと同時に、一騎の姿は埋もれて消えた。

総士の一騎の名を叫ぶ声が外まで抜けて、そして一騎の救出作戦が始まる。


***


へたりこんでぼんやりと作業が進むのを見つめる総士の隣に、道生はしゃがんだ。

「なんだぁ?あの顔」

言いながら一騎の埋まった蒲団の方を顎でしゃくる。

道生が言っているのは、一騎が『総士が無事に脱出した』とカノンから聞いたすぐあとに見せた特大の笑みの事で、総士もそれをはっきりと見ていた。

「愛されてんなぁ、お前」

言いながらくしゃくしゃと総士の頭を撫でる。

本人はというと放心してしまっているようで反論すらない。

(そんなに一騎のことが心配か?)

 と道生が思っているうちに蒲団が全て取りのけられ・・・

「総士っ総士っ大丈夫か?」

一気に起きあがった一騎がそのままの勢いで総士に駆け寄る。

「ごめん・・・ごめんなっ!もっと俺がしっかりしてれば・・・痛いとこ無いか?!!」

「え・・・あ・・・平気だ」

おろおろする一騎・・・潰されたことを忘れている。

多分思い出したら、全員殺される。

道生だけ人柱にしても、避けられない被害が出る。

 一騎が総士に全力で構う間に、一人二人と逃げ出した。



END
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