みんな見ていた。




 「これ」はどっちの総士なのか考える。

いつも通りの総士か。

それとも、気の動転した可哀相な総士か。

「えっと・・・・・・ごめん・・・勝手な真似して・・・・・」

泣きながら、何かを喚きながら総士は殴ってくる。

皆が見ているのにみんなの前で。

あえてそうしているのではなく、気持ちが抑えられないみたいだ。

殴られすぎて体が動かない。

避けなかったら総士の手が顔面に当たって、どこかから出た血が総士についた。

合間に何度も謝ったのに、総士は止めてくれない。

「ごめん・・・・・・総士・・・ごめん・・・・・・」

殴られて、確かに痛いのだけれどそれより遥かにびっくりしてしまっていて、何も感じない。

どうしていいかもわからない。

殴ってくる総士を見つめるばかりで逃げることも助けを求めることも忘れた。

どうやったら助けて貰えるのかも思いつかなかった。

そのせいかもしれないけれど、総士のことを皆見てるのに、誰も助けてくれなかった。

とうとう総士が歪んで見えて、貧血の時みたいに膝がザワザワして床にへたり込んだ。

見上げた先の総士も似たような感じだった。

でも睨んできて。

総士の目に殺されるかと思った。

「ごめん・・・・・・」

肩で息をする総士にもう一度謝る。

顔を上げたら出たばかりの血の塊が顎まで落ちた。

 総士を眺める。

だんだん痛くなってきた。

よくわからなくなってきた。

なんで自分だけこんなに殴られるのだろう。

「総士を守ってごめん・・・・・・」

思いついたことを呟く。

てっきりまた殴られると思ったのに、今度は何もされなかった。

「島を守ってごめん・・・・・・」

 よく思い出せない。

何をしたのか。

ちゃんと戦ったつもりだったのに。

戦っていたら突然総士にザインを止められた。

大勢の大人にコックピットから引きずり出されて。

気がついたらメディカルルームで。

起き上がったら皆がいて。

遠見が話しかけてきてくれたから嬉しくて、遠見に触りたくなって手を繋ごうとした。

そしたら遠見が急に後ずさって、おかしいなと思ったら間に総士が入ってきて、いきなり殴った。

理由を聞こうとしたらまた殴られて、止めてくれるよう頼もうとしたら泣かれた。

泣き止んでほしいと思ったら総士にも触りたくなって、手を伸ばしたらまた殴られた。

「総・・・・」

 総士が物凄く冷たい目で睨んでくる。

もしかしたらいつもこんな目だったような気がする。

だって総士がこんな目で見てくるなんておかしい。

「俺・・・・・・何か・・・したぁ?」

散々殴られたせいで舌が変な風に動く。

まっすぐ総士が見えない。

吐きたい。

 もっと気持ち悪くなった。

突っ伏したら、総士に撫でてもらえるような気がした。

優しい声を聞きたくて倒れこんだのに、誰も動いてくれない。

誰も何も言ってくれない。

遠くで見てるだけ。

それに総士が後ろに下がる。

助け起こしてくれると思ったのに。

苦しい時はいつも撫でてくれたのに。

 文句を言おうとして顔を上げた。

それだけで気絶しそうに頭が痛い。

でもせめて総士を睨みたかった。

 顔を上げたら総士の後ろのモニターに、自分が映されているのが見えた。

モニターの中の自分が自分を見てくる。

目が真っ赤だ。




可哀想なのは一騎だ。





end