殴られた
総士が、部屋の入口で崩れてしまった一騎を助け起こすには、手にした贈り物の残りを一度机に置かなければならなかった。
一騎は俯いていて、抱き起こそうとしても動こうとはしなかった。
仕方なく手のものを一度置いて、一騎と向き合うようにしてしゃがむ。
とりあえず、この居心地悪い空気をどうにかしようと笑いかけた。
その瞬間一騎の拳がそのまま頬に入って、痛みで脳が揺れた。
殴られていた。
視界もぼやけて、何も出来ないまま一騎に乗り上げられるのを許した。
これ以上はやめてくれるよう頼もうとしたけれど、それより一騎の絶叫の方が早かった。
「なんで捨てた!!」
一騎の言葉が示す、作ってきたばかりのお弁当。
総士のために作られた、夕食。
総士が半分まで捨てたところで、どういうわけか戻ってきた一騎に見つかってしまった。
殴り倒された拍子に酷く頭を床に打ちつけて、おかげで上手くしゃべれない。
乗り上げてきた一騎は激昂している。
見たことは誤魔化しようのないことなので、言葉を選べば余計に刺激してしまうだろう。
「食べたくない」
床からまっすぐ一騎を見上げて言い放つ。
それが酷くショックだったようで、力の抜けた一騎の下からは簡単に這い出せた。
「食べるより眠りたい」
茫然自失の中見上げてくる一騎を無視して、ベットに落ちる。
頬が痛むのすらどうでも良くなって、まどろみ始めたその矢先
唇に何かが押し付けられた。
机に置いた夕食の残りだと感じ、無視していたら口を勝手にこじあけられて
唇に押し付けられていた一口分が突っ込まれようとしていた。
入れられる前に寝返りを打つ。
押し付けられていた一口が、シーツに落ちた。
「・・・・・・食べろよ」
消えそうな声が顔のすぐ傍で、した。
新しい一口分が、声とともに今度は口に塗りつけられる。
「頼むから・・・・・・食べて・・・・・・」
一騎の手が離れると、それもまた、シーツに落ちた。
一騎は、夕食を詰めていた箱が空になるまで繰り返す。
空になるまで夢中になっていて、指先が何も掴まなくなったときになって初めて気がついた。
総士が眠ってしまったと知れた瞬間、全身から力が抜けて、総士のベットに突っ伏す。
ベトベトになった手で探って、総士の腕を捜した。
肩から伝って、手首を掴む。
総士の、小指と親指で掴めるぐらいに細くなった手首。
体温の掻き消えていくそれを、何度も擦った。
「・・・・・食べて・・・・・」
虚ろに呟く。
骨を撫でる感触がした。
起きて動いているより、眠っている方が長くなったと気づいているのだろうか。
END
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